ヒロユキです。
こんな真冬にライダースーツに身を纏ったライダーが『隼』に跨り駆け抜けて行った。
地球上で最速の猛禽類である隼(ハヤブサ)の名を冠したバイクである。
隼の英語表記はファルコン。
とてつもなく速そうである
一瞬の間に横切ったにも関わらずそのバイクが『隼』だと分かったのは僕がバイクに詳しいわけではない。バイクの車体に
『隼』
としっかり描いてあったからである。
出典: YouTube
そんな隼の排気音が遠ざかり、小さく聞こえている時にふと、自分が初めて原付バイクに乗った日のことを思い出した。
ヤンキー漫画全盛期の頃である。
XJ=ペケジェー
XJR=ペケジェーアール
XL=ペケエル
ZX=ゼッペケ
上記の英単語は全て自動二輪車の事を指すのだが
エックス=ペケと呼んで表す事が主流だった。
ペケと呼ぶ事でバイクの事は詳しくなくても
何となく知った風な雰囲気を醸し出せたのだ
学生だった僕や僕の周りでは当然のごとく原付バイクに乗る人が多く、
ZX=ゼッペケに乗ってる人が多かった
「◯◯君の原付ってなんだっけ?」
『白のゼッペケ』
「△△君もゼッペケだよね?」
『俺、黒のゼッペケだよ』
みたいな
【俺ゼッペケ】がちょっとアウトローな格好良さがあるように見えるのだった。
そんな我が家にあった原付バイクはヤマハの
JOG=ジョグである。
ペケ読みが出来ない
買い物袋も余裕で入る前カゴの付いたアウトローよろしく正統派お買い物自動二輪車である
僕はゼッペケに乗りたかった。
【俺ゼッペケ】をどうしてもやりたかった
試しに車体に白字で描かれたJOGのJに
斜めの線を白いポスカで足してみた
XOG
もはやどう読んでいいのか分からない
ペケオグ…?ペケオージー…?
ダサい、どのみちダサい
なんか体に有害なガスみたいな名前になってしまった
急いで車体を擦って消そうとしたもののただ汚れてしまった上にロゴの周りは小キズだらけ
まるで若気の至りで愛の誓いに恋人のイニシャルのタトゥーを入れた後に別れて相手の名前だけを背負った1人の漢みたいになってしまった
ポスカでJOGに消えない心の傷を負わせてしまったのだ
傷つけたJOGを愛そう。
(ペケジェーなんて名前に惑わされる事なく
この汚れたJOGと共に人生を歩んで行こうじゃあないか)
そう自分に言い聞かせてJOGに跨りエンジンをかけてゆっくりとハンドルを回して近くのコンビニへと走り出した
コンビニへはあっという間に到着した。
僕の初めてのツーリングは5分で目的地に到着した。
コンビニに停めてある自転車達の横に
「ワイはバイクやで」
と言わんばかりに駐車し鍵をかけ、これ見よがしにヘルメットを外しながら自動二輪車アピールを怠る事なく自動ドアを開けてコカコーラを1本購入
コンビニを出てJOGに跨りコカコーラを空けて
ひと口飲んだ
自転車のサドルに跨って飲むコカコーラとはまた違った味に思えた。
ちょうどエンジンをかけたタイミングで中学生数人がコンビニに自転車を停めようとしていたのでJOGの停めていたスペースを明け渡しながら自分が颯爽と車道に駆け出して行く一部始終を中学生の目に留めてやりたい!
という衝動に駆られてヘルメットを急ぎながらも余裕のある雰囲気で被ってアクセルを全開
その瞬間、車道に後続車が来ないタイミングを見計らっていた僕の目の前に青空が広がった
その時は何が起こったのか全く分からなかったがアクセスを全開にした事でJOGの前輪が持ち上がり、ウィーリーしたのだ
暴れるJOGに引きずられながら振り放されないように必死にしがみつく僕
しがみつく手はハンドルを握っているのでアクセルは依然全開
中学生の事など頭の中から吹っ飛んでしまった
パニック状態の中で必死にハンドルを握りしめながら右手の中指と薬指と小指を伸ばしてブレーキに手を伸ばす事で更にアクセルを全開にする僕
指を伸ばす⇨アクセル全開⇨懸命に指を伸ばす⇨アクセル全開⇨必死に指を伸ばす⇨アクセル全開の負のループ
(このままずっとこの状態が続くのか…)
考える余裕が出て来た時にハンドルを放せばJOGも止まる事に気付いて両手を離した
それまで高速回転するコーヒーカップに乗っているような目の回る景色が急にいつもの風景に戻ったところで目の前には無人のJOGが側溝に落ちている。
ポスカの跡も見当たらない程にボロボロのJOG
引きずられ続けて全身ボロボロの僕
一部始終を中学生の目に留めてしまった僕は後ろを振り返る事なくジョグを引き上げエンジンをかける
かからない
よくわからないコードがはみ出たJOGを引きずりながら片道5分の距離をゆっくりと歩いて帰路に着いた。
これが僕とJOGの最初で最後のツーリングの思い出である。
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