見えない敵との戦い。

今朝、コンビニに立ち寄ると
どうやら出勤や登校時のピークは過ぎて一段落した様子だった。

僕はこの時間のコンビニの空気が好きだ。

パートのおばちゃんの

「裏に行きます。」

この声掛けにも余裕を感じる。
落ち着きを取り戻したレジを背に
品出しに専念する事が出来るからだろうか

雑誌の立ち読みをする若者の横で本棚の整理をする距離感にも確かな優しさがあった


僕もそんな空気に同調したかったが
電車の時間が迫っていた

一人、このコンビニとは違う時間が流れていたのだ

ただ、僕はどうしてもコーヒーを飲みたかった。

出来るだけスムーズにこのコンビニを後にする為に他の商品と一緒に缶コーヒーを購入するという選択肢もあったのだが
ここでふと頭の中にある考えが浮かんだ

(出来ればコーヒーマシンで淹れたてのコーヒーを飲みたい)

しかしコーヒーマシンで淹れたてのコーヒーを飲もうとするとどうしても一分弱は余計に時間がかかる。

たった一分弱。されど一分弱。

一般的な歩行速度は時速4km。

少なく見積もっても60mは急いで移動しなくてはいけなくなる

細かい。

非常に細かい

たった60m。されど60m。

僕は走るのが嫌なのだ。

走って朝から汗をかくのが嫌なのだ。

光の速さで脳内会議を終えた僕はこの時間だからこそ出来る悪手に手を出した。

(後ろに誰も並んでいない)

(コーヒーマシンを誰も使ってはいない)

(ここは我が独壇場。たぶん大丈夫!)

レジに戻ってきたおばちゃんに他の商品よりもレジを通りやすいようにコーヒーカップのみを先に渡して確認を取る。

「これ、先に淹れても良いですか?」

おばちゃんは答えた。

「い…

この瞬間にはもう僕はコーヒーカップのカバーを開けていた。

確信があった。

…いですよ」

勝った!

その瞬間、自分の勝ちを確信した!

これで九月に入ったもののまだ残る日差しの強さと秋の涼しい風を感じながら悠々と淹れたてのコーヒーを飲むイメージを実現する事が確約されたのだ!

しかし、もたらされた勝利の余韻に浸る事で気を抜いてはいけない
Sサイズに対してLサイズのボタンを押す様な
凡ミスにこの勝利を汚される訳にはいかない

こういう時こそ慎重に行動することで勝利を確固たるものにするのだ

即座にレジに戻り会計を済まして出来上がったコーヒーを片手に颯爽とコンビニを後にして
初めてこの戦いは完結するのだ!

おばちゃんはコーヒーマシンのボタンを押す僕に一瞥する事もなく目の前の商品のバーコードを読み取っている

相手は百戦錬磨のプロ

『その手法は既に見切っている』

そう言わんばかりの表情だ

口元には笑みすら浮かべている様にも見える

こっちも幾多の経験を積んだ髪のプロだ

髪プロ
全てカタカナに変換するとカミプロ
セミプロみたいな感じになる
全く歯が立たたない感じになった

レジに戻った時に

「コーヒーはリラックス効果だけでなく、末端の血管を拡張する作用があるので血流量を増加して代謝機能の促進にもつながりますね」

なんて美容情報を話しても全く歯が立つはずが無い

更には人間性すら疑われる可能性も高い

戦う前から負けは決まっていた。

おばちゃんは戦ってすらいなかった

僕はただおばちゃんの掌で勝手に踊っていただけだったのだ。

会計を終えたおばちゃんは

『裏 行ってきます』

そう一言だけを残して去っていった。

誰に対してでもなくただ
その一言だけをその場に残して去っていった

完全なる敗北である。

一歩 後ずさるだけで開く自動ドアに後押しされる様にコンビニを後に駅に向かった

時速4km。

駅まで急ぐ事もなく

ゆっくりと歩いて駅のホームに並んだ。

作戦は完璧だった。

試合に勝って勝負に負けたのだ。

淹れたてのコーヒーもいつもより苦く感じるかもしれない

そう思った時に右手にスマホ

左手にあるはずのコーヒーが見当たらない!

「コーヒーマシンの中にセットされたままだ!」

僕は最後の最後に気を抜いてしまったのだ

もし今が戦国時代なら強敵を目の前にして刀を放り出して逃げ出した様なものだ

その時に助かっても丸腰のまま逃げている道中で野盗に襲われて即死だったに違いない

武器も持たずに悠々と60m

戦国時代の尺貫法に直すと三十三間も歩いていたのだ


【急がば回れ】

最初から缶コーヒーを買っておけば良かったのかも知れない

今の時代に生まれて命拾いをした。



こうして僕は今日、一杯目で二本目のコーヒーを手に入れたという一言で済む事を長々とブログに書き綴ったわけである

今月もブログは長い文章になりそうだ。

☞to be continued

P.S. おばちゃん、仕事を増やして申し訳ありません。また買いに行きますのでセットされたままのコーヒー、よろしくお願いします。

この記事を書いた人

ヒロユキ

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